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ノーベル医学生理学賞の低酸素応答「HIF」とは?

2019.11.01

マラソン選手が、持久力を高めるために「高地トレーニング」を行うことは、よく知られています。
これは、何のために行うのかと言うと、あえて酸素の少ない高地でトレーニングを行うことで、体内で酸素の運搬役を担う赤血球の数を増やし、体の持久力を高めることが狙いです。
酸素が少なくなったときに、体は順応する仕組みをもっています。
では、それはどういうメカニズムで起きているのでしょうか。
この「細胞が低酸素を検知し、応答する仕組みの発見」によって、このほど、北米の3人の研究者にノーベル医学生理学賞が贈られることになりました。

HIFを発見した人、HIFを解明した人

私たちは酸素がなければ生きていけません。
そのため、酸素が不足していると「エリスロポエチン」というホルモンが増えて、赤血球が多く作られ、酸素の運搬能力を高める仕組みが備わっています。
ここまでは以前からわかっていたものの、さらに詳しいメカニズムがわかったのがここ30年ほどのことだそうです。

まず、1990年代に、米ジョンズ・ホプキンズ大学のグレッグ・セメンザ氏が、低酸素状態のときにエリスロポエチン遺伝子を活性化するタンパク質を発見し、「Hypoxia-inducible factor:HIF」(低酸素応答誘導因子)と名づけました。
そして、HIFが酸素濃度に応じて低酸素応答遺伝子のスイッチをオンオフする分子メカニズムを明らかにしたのが、英オックスフォード大学のピーター・ラトクリフ氏と米ハーバード大学のウィリアム・ケーリン氏の二人です。
この3名が、ノーベル医学生理学賞を受賞しました。

HIFをもとにした新薬も

今年9月には、この発見がもとになって開発された新たな薬が日本で承認されました。
人工透析期の慢性腎臓病の患者さんのための薬です。
腎臓は、老廃物を排泄するだけではなく、ホルモンを分泌する機能(内分泌機能)も持っていて、エリスロポエチンも腎臓で産生されます。そのため、慢性腎臓病で腎臓の機能が低下すると、エリスロポエチンの産生力も低下し、その結果、赤血球の数が減り、貧血を引き起こしやすいのです。
これを、「腎性貧血」と言います。
この慢性腎臓病に伴う腎性貧血を改善する薬として、このほど承認されたのが、「エベレンゾ」(一般名・ロキサデュスタット)という薬です。これは、HIFを活性化することで、赤血球の数を増やし、貧血を防ぎます。

がんの治療にも期待

そのほか、HIFは、慢性炎症や、がんの血管新生、転移などとの関連も報告されています。
がん細胞というのは、じつは酸素を取り込む能力が低いのですが、それでも無限に増殖していくのは、このHIFを利用して血管を形成しているからなのです。
ちなみに、今回、ノーベル医学生理学賞を受賞されたお三方は、セメンザ氏は小児科医を経て研究者に、ケーリン氏はもともと腫瘍内科医、ラトクリフ氏は腎臓内科医だったそうです。
さまざまな分野から、「HIF」の研究にたどり着いたというところからも、この発見がさまざまな病気の治療につながることが期待されます。

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